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読売新聞 : [論点]不祥事防止へ「PR」の視点を・・・井之上 喬氏 (2019年3月13日掲載)

当学井之上会副会長の記事が読売新聞(2019年3月13日付)の[論点]に掲載されましたので当学会ニュース欄にて紹介します。

 どうしたらなくせるか。パブリック・リレーションズ(PR)の視点が役に立つだろう。

 日本でPRというと「広告・宣伝」と捉えられることが多いが、元来のパブリック・リレーションズはそれ以上のものだ。企業や官庁が、事業や施策、考え方を広く人々に知ってもらい、目標達成に向けて理解、協力を得るための活動だ。

 一方通行の情報の押し付けと異なり、双方向のコミュニケーションである。正しいと信じる部分では相手をとことん説得し、自分の側に非や不備が見つかればためらわずに修正する柔軟性も備えていなければならない。これは、組織だけでなく、個人にも当てはまる。

 日本が長年培ってきた文化は、「あうんの呼吸」「以心伝心」に凝縮されるといっていい。状況や背景が共有されていることを前提に、言葉にしなくても思いが伝わる。

 相手の気持ちを察して、細やかに対応する「おもてなし」は、これを最も好ましい形に昇華させたものだ。

 実はこれは、言葉を尽くすPRの対極にある。その負の側面にも注意しなくてはいけない。企業や省庁の不祥事が、その端的な表れだと考えている。

 個人個人は優秀で常識を備えていても、小さな仲間内の忖度そんたくや同調圧力に負け、倫理観を忘れて流されてしまったのではないか。個人として社会(パブリック)に向き合うPRの視点があれば、防げたはずだ。

 多民族、多言語、多宗教の世界は、暗黙の了解を期待せず、しっかり言葉で伝える文化が根底にある。適切な自己主張、自己表現なしには生き抜けない。

 これは私自身が、1970年代から米シリコンバレーの大手企業や米国の政府、大学と関わってきた経験に基づく実感だ。

 企業、個人を問わず、問題の解決には、自分の立場を丁寧に説明し、相手の主張にしっかり耳を傾けることがスタートラインだ。そうした双方向のコミュニケーションを通じてこそ、相互に納得できる道を見つけることができる。

 世界は、デジタル技術が軸となって高度にグローバル化が進む「ハイパーグローバリゼーション(HG)」の時代に入った。ネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の急速な普及は、世界を狭くし、フェイク情報が瞬く間に広がる危うさも生み出した。

 人間関係が希薄になった今日だからこそ、個人が自身の立場や意見をPRする能力を身につけることが一層重要になっている。

 そのために、幼いころから、自分と相手が違うことを認識する教育が欠かせない。個人個人が、守ったり、実現したりしたいことを確認しながら、よりよい状態の達成に向けて努力する訓練は、時間がかかる。

 大人に対しては、集団行動や協調性は大切だが、それに加え、個人として社会に向き合う姿勢を持つことが肝要だと強調したい。

(プロフィール)
いのうえ・たかし PR会社「井之上パブリックリレーションズ」会長。京都大学経営管理大学院特命教授。グローバルビジネス学会副会長。74歳いのうえ・たかし PR会社「井之上パブリックリレーションズ」会長。京都大学経営管理大学院特命教授。グローバルビジネス学会副会長。74歳
 企業の製品検査不正や省庁の障害者雇用者数の水増しなど、組織が引き起こす不祥事があとを絶たない。